アメリカで出会ったテレマの神様の予言

今は亡きパートナーを振り返る

私には、長年に亘りアライアンスを組んだアメリカ人のパートナーがいました。

ダイレクトマーケティングとテレマーケティングのパイオニア、故Mr. Lee R. Van Vechten(リー・バンベクテン)です。(2003年逝去)米国ではテレマーケティングのグル(神)と呼ばれていました。心臓発作で急逝し、突然の別れになるまで13年間、共同のセミナーや、ニューズレターの共著などの活動を行っていました。今までウェブでは、その情報を発信することはありませんでしたが、彼との活動から学んだことを振り返り、今後の本ブログで発信していきたいと思っています。そう考えるようになったきっかけは、2020年から始まったコロナ禍です。彼のマーケターとしての高い先見性は示唆に富んでいて、今の時代にこそ、多くのビジネスを救うアドバイスを伝え遺してくれたことに改めて気づかされたのです。

 

プロアクティブなカスタービスの価値

彼は、B2BB2C両分野の経験を積んでいて、コンサルティングの対象、領域も非常に幅広いものでした。私が、とりわけ強い影響を受けたのはテレマーケティングのアプリケーション(応用)として顧客サービスのセオリー(理論・方法)です。

日米のビジネスにおいて共に言えることですが、カスタマー(顧客)サービスはコストと捉えられプロフィット(利益)に直結するものではないという認識が一般的です。実際にカスタマー(顧客)サービスは、大手企業なら組織的に運営を行っていますが、コスト削減は常に課題になっています。スモールビジネスやスタートアップ企業などでは、業務の合間に問い合わせの対応を行うことが殆どでしょう。大量なコールが入ってくる大手企業では、できるだけ問い合わせが入らない様、セルフサービスやAIの活用でコントロールを行うのがトレンドになっています。

その理由は前述のように顧客対応イコール、コストだと考えられているからです。この認識に対して真っ向から反対の考えをもっていたのが私のパートナーでした。

Mr. Lee R. Van Vechtenの主張は、こうです。

インバウンド(顧客からの問合せ)を受けるカスタマーサービスの課題は、B2BB2Cを問わず、いかにプロアクティブな(積極的な)サービスに変えていくか、です。プロアクティブの反対語は、リアクティブ(受け身)ですが、問い合わせに応えるだけでは、カスタマーサービスはコスト部門に陥ってしまいます。プロアクティブなカスタマーサービスは、顧客が求める前に期待することを先に提供するのです。

見込客や顧客の期待以上の対応を行うことで、顧客の獲得やリピートカスタマーの維持拡大に貢献します。マーケティングで起きる殆どの問題は、見込客や顧客と対話することによって解決できます。IT社会の反作用として一対一の人間的なコミュニケーションは更に価値を高めるはずです。どんなにコンピュータが進化してもヒトにしかできない仕事があることを忘れてはなりません。

 

テレマーケティングとは何か?

パートナーは、プロアクティブなカスタマーサービスを実行するには、テレマーケティングの知見(インテリジェンス)が必要だと考えていました。

「テレマーケティング」というと、日本人にはテレアポとか電話セールスくらいしか思い浮かばないのが一般的です。テレマーケティングの正しい定義とは?などと

考える人もいないでしょうが、私が彼した最初の質問が役に立つと思います。

Lee、テレホンマーケティングとテレマーケティングは同じ意味ですか?」

その質問、してほしかったんだよね、と嬉しそうに笑いながら、答えてくれました。

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テレマーケティングのテレは電話という意味ではなく、テレは遠隔を意味し非対面で行うマーケティングプロセスを定義しているのです。

「テレホンマーケティング」と言う時は、電話を架けたり受けたりするプロセスを指し「テレマーケティング」とは、マーケティング計画全体のことです。

テレマーケティングは、様々な媒体を組み合わせて、顧客や見込客とのダイレクトなタッチポイントとして効果的に電話を活用するのです。

この時は1990年で、インターネットはありませんでしたが、テレマーケティングの神様は、予言していました。まもなくインタラクティブな新しいメディアが登場して媒体の主流になると言い、テレコミュニケーションの技術の進化を予見していたのです。当時の私には「インタラクティブな新しいメディア」という概念は、全く想像できませんでした。それは何ですか?と聞くと「日常生活の中の多くのこと、なんでも出来るもの」数年後、インターネットの出現によって、私は彼の言ったことを、やっと理解できたのでした。さらに10年後の、2000年には電話とインターネット回線は融合し、クリック&コネクトと呼ばれるコンピュータテレフォニーの技術によってネット上からワンクリックで電話やチャットに繋がる時代になっていくのです。

テレマーケティングの電話にはアウトバウンドコール(架ける電話)とインバウンドコール(受ける電話)がありますが、米国の消費者向けのマーケティング(B2C)では1990年以降インバウンドコールが主流になりました。90年代、消費者に電話を架けるアウトバウンドコールはアメリカ中の嫌われ者でした。リスト業者から購入した個人情報を使い、電話を掛けまくるコールドコール(面識のない相手に電話をすること)が横行。交換機で自動的にダイヤルするシステムを使うため、消費者が鳴った電話を取るとオペレータへの接続のタイミングが合わず、頻繁に無言電話になってしまうことが大批判を浴びて、B2Cのアウトバウンドコールは厳しい罰則規定の下、法規制される羽目になりました。そこで90年代の初頭からは、米国でテレマーケティングを使う企業は消費者からの電話を受けるインバウンドコールのマーケティングが主流になり「コールセンター」という言葉が生まれました。当時テレマーケティング業界のホットな話題は、受け身のインバウンドコールをいかにプロフィットする(儲かる)テレマーケティングに変えるか?でした。その流れは今に続いています。ただし、B2Cで起きたような法規制がない企業間ビジネス(B2B)のアウトバウンドコールは、現在も多様な営業活動に利用されています。

 

牛の精液からミサイルまで、電話で売る国

これは、私の米国人のパートナーから聞いた本当の話です。電話で売れないモノはないと彼は言い切りました。彼がこの話をセミナーで日本人にすると、えっ!アウトバウンドコールですか?なんていう間抜けな質問が返ってきたと苦笑していたのを覚えています。実際、90年代で既に米国のテレマーケティングのアプリケーション(応用範囲)は日本人の想像を超えていました。テレマーケティングの認識は日本とかけ離れたスケールで定義づけられ、業種、業界を超えてあらゆる分野のビジネスにおいて進化し続けていたのです。牛の精液からミサイルまで、です。

また電話1本で、5千万ドルの不動産販売の商談を獲得する実話をパートナーから聞いた時には、日本人が考えるテレマーケティングと米国で定着したテレマーケティングには大きなギャップがあると痛感したものです。

米国と日本では市場環境が違うだろう!という反論があると思います。また今後は

AIが進化してヒトと同レベルの対応が可能になれば、わざわざ電話で問い合わせをする必要がなくなるのでは?という意見もあります。ですが、ここで考えなければならないのは、今コロナ禍で、セルフサービスや、非対面のセールスへの移行が起きている事実です。つまり「遠隔」でオペレーションするビジネススタイル(物販、サービス、商談など)の定着ということになります。ここにシフトチェンジすると、「テレマーケティング」「顧客サービス」はビジネス成功の鍵になる可能性が大いにあります。

 

スモールビジネスに有利な顧客サービス

私の会社は1年前からネット通販事業をスタートアップしました。超スモールスタートなので、コールセンターやカスタマーサービス部門を立ち上げる投資ができていません。ですが、テレマの神の言いつけを守り、プロアクティブなカスタマーサービスを実践しています。しかもフリーダイヤル1回線、スマホ1台という最小の環境です。小規模ですが、お客様の期待に先回りして、出来得る限りの最高のサービスにチャレンジ中です。結果として一年を待たず、顧客のリピート率は50%を超えました。私自身が改めてテレマーケティングのパワーを再認識しているところです。電話は最も身近でパワフルなコミュニケーションツールです。テレマの神は本物でした。その手法については別の機会に、ご報告していきたいと思います。電話の前にスタッフをスタンバイさせる余裕がないのが、スモールビジネスの実態ですが、どうすれば良いかと聞かれたら、私はこう答えます。「はい、コールセンターは要りませんよ」

テレマの神様から学んだ最大の教訓は、テレマーケティングに必要なのは装備や

大がかりな投資ではないこと。テレマーケティングは概念、考え方だということです。

むしろ小規模なビジネス、スタートアップのビジネスに歩があると思っています。

 

大規模なコールセンターが、大人数のオペレータにいきなり明日から、プロアクティブに動け!といっても、簡単にはいかないからです。極端に言えば、スマホ1台でも工夫によって大手に負けないカスタマーサービスを提供することができるし、小規模で始めることが、サービス品質を守る強みになると思っています。テレマーケティングという言葉を使う必要はないかもしれませんが、サービス、セールスの活動において、新しい発想で電話の活用を見直すべき時ではないかと考えています。大がかりな投資をせずに、カスタマーサービスで決定的な差別化を図れるのがテレマーケティングの発想そのものです。誤解を恐れずに言えば、日本では、テレアポ以外でテレマーケティングを本気追求した人や組織は皆無に近いので、チャレンジは大きなチャンスだとも言えます。どんなにITが進化しても、最後はヒトの対応に行き着くニーズがなくならない限り、「顧客との強い結びつき」をつくることこそが、時代の変化に対応できる不可欠の課題だと考えています。